2024年5月9日
場所:国立研究開発法人 水産研究・教育機構
水産大学校 講義棟(構内図は後日、HPでお示しさせていただく予定です)
〒759-6595 山口県下関市永田本町二丁目7-1
日程:2024年6月15日(土)〜16日(日)
6月15日(土):
10:00~11:30 全国理事会
13:00~17:00 大会シンポジウム
17:15~19:00 懇親会
6月16日(日):
9:00~10:40 一般報告(2会場)
10:45~12:00 総 会
交通案内:
下関駅-水産大学校 間の移動について
下関駅から水産大学校までの移動は、下関駅から山陰線に乗車し𠮷見駅で下車し、
徒歩約20分(右図参照)が一般的なルートです。
ご注意ください!
吉見駅が無人駅で、デジタル対応もしておりません。
下関駅で240円の切符を購入してください。
Suica等は使用できません。
また、山陰線の本数が少ないので、あらかじめ時刻表を確認しておいてください。
参考に、6月16日の山陰線の時刻を記しておきます。
行き 下関駅8:06-(山陰線)→吉見駅8:30-(徒歩)→水産大学校9:00
帰り 水産大学校12:00‐(徒歩)→吉見駅12:30-(山陰線)→下関駅12:54
大会参加費:無料
懇親会費 :4,000円
6月15日(土)13:00~17:00
コーディネーター 甫喜本 憲(水産大学校)
日本国内は労働供給制約社会の到来により、地方での労働力人口の減少に伴う様々な弊害が指摘され、事業合理化やDX等のイノベーションを推進することの必要性が指摘されている。水産業においてもその多くは地方に根拠を持ち、労働力不足と高齢化問題に早くから直面してきた産業であり、昭和1ケタ生まれ~団塊世代が大きなボリュームを占める就業構造を基底に、IUターン等の新規就業者支援や外国人研修制度等の施策が講じられながらもこの10年ほどで中核世代の大量脱漁期を迎えるに至った。しかし現状を見ればDXの進展はまだ限定的であるし、安易なDXへの期待も禁物な状態といえる。まずは事業経営者がきちんと世代交代し、如何なる事業展望を持っているかが重要だからである。
そこで本シンポジウムでは、地域漁業を構成する特に沿岸漁業、沖合漁業等の漁船漁業に焦点をあて、次世代にバトンタッチするに際しての課題として、以下の点を検討することにする。
①経営主体の立場から、どのように漁家や事業体の世代交代や事業継承が図られるか(図られないか)、その判断基準や分岐点を探る(それが血縁関係の有無でどう違うかも)。また引き継ぐ世代と引き継がれる世代、双方の意識や事業展望の一致点と相違点を検討する。
②世代交代する際に、次世代にどのような知識、技術、知恵が引き継がれるか(べきか)。また単純に引き継がれない場合にはどのように代替させるか。
③漁業経営とそれをとりまく漁協、市場業者との関係はどうなるか。既存の関係は保たれるか、それとも新しい関係が生まれるか。
④総合的に漁村就業の形や漁村生活にどのような変化が生じ、どのような将来像が展望されるか。
以上より、漁船漁業における将来像を検討する上での一助としたい。またこの目的に接近するため、以下の報告を予定している。是非大会に参加し、議論のご参加いただきたい。
司会:佐野 雅昭(鹿児島大学)・西村絵美(水産大学校)
報告:
1.新規漁業就業者対策の効果と地域漁業への影響-山口県を事例として
大谷 誠(水産大学校)
2.福岡県中型まき網漁業における世代交代の実態
児玉 工(水産大学校)
3.漁協職員の世代交代の現状と展望―山口県を事例に―
甫喜本 憲(水産大学校)
4.沿岸漁業産地における買受人の事業継承の現状と課題
鈴木 崇史(鹿児島大学水産学部)
5.県行政から見た漁業者の世代交代の施策と課題
(山口県水産振興課)
大谷 誠(水産大学校)
漁業就業者の減少と高齢化への対応として、Iターン者等の漁業と地縁血縁を有さない者を対象とした新規漁業就業者確保対策が開始されて約25年が経過しようとしている。開始当時は、新規就業者の多くを占めた漁家子弟等の地縁血縁者から対象者が変更されたこと。さらに小泉構造改革のセーフティネットとしての失業者対策の側面や地方自治体の過疎化対策の側面を有することなどから、新規漁業就業者対策としての効果を疑問視する意見が散見され、抵抗感を示す地域漁業も少なからず存在した。しかし、このような新規漁業就業者対策は、各都道府県や市町村で開始され全国的に拡大するとともに、国においても整備拡充が図られながら現在に至っている。その一方で、漁家子弟の後継による新規就業者の確保は行政的対応として置き去りにされた感があり、漁家世帯内の対応に委ねられているままの現状にあるといえる。
そこで本報告では、漁業と地縁血縁を有さない者を対象とした新規漁業就業者対策を全国に先駆けて平成10年から開始し、その後漁家子弟も対象に含めて実施している山口県を事例として、開始から約25年を経た現在までに漁業就業者の確保育成に関してどのような効果をもたらし、地域漁業にいかなる影響(変化)を与えたのかを検証してみたい。具体的な視点としては、山口県の沿岸の独立型(自営)の漁業就業者に焦点を絞り、①新規漁業就業者対策として直面してきた課題とその課題の解消に向けた行政的及び地域的対応を整理すること②本対策が地域漁業の就業構造に与えた影響を漁家子弟の動向を含めて整理すること、③地域漁業全体にもたらされた変化と今後の展望を漁場利用や営漁形態などの側面から整理することにつとめたい。
なお、山口県は、漁業就業者の減少率が平成20年から平成30年の間に全国平均を大きく上回る41.6%となっており、平成30年は65歳以上の漁業就業者が占める割合も58.6%と全国2位となっている一方で(漁業センサス)、新規就業者対策を試行錯誤しながら実施し続けた結果、平成10年から令和5年までに284名(うち漁家子弟58名)に漁業研修を実施し約220名が現在も就業中である(山口県資料)。また、この対策が開始された当時に新規就業した者の中には、すでに20年以上の漁業経験を有し地域漁業内で中心的役割を果たしている者も存在している。
児玉 工(水産大学校)
知事許可漁業である中型まき網漁業は,大臣許可漁業である大中型まき網漁業と比較して生産力では劣るものの,大中型まき網漁業では複数の許可を有し時期によって操業海域を全国規模で変える場合があるのに対し,中型まき網漁業では許可を受けた都道府県の海域でのみ操業がなされる。
一方,中型まき網漁業の漁獲物は,生鮮向けのみならず,加工原料や養殖餌料にも仕向けられ,漁業根拠地の干物加工業,煮干し加工業や養殖餌料業者と深く結びついている場合もある。
以上のとおり,中型まき網漁業は漁業根拠地との関係性が強い漁業といえるが,このことは当該漁業の人的な側面においても同様と思われる。中型まき網漁業は雇用型漁業であり,一定数の雇用者を確保することができてはじめて操業が可能となるからである。
本報告では,筑前海で操業する福岡県の中型まき網漁業を事例として,経営者の世代交代の状況について検討する。また,乗組員と漁獲物の陸揚げ・選別を担う陸上要員の確保の状況についても検討する。これらの検討を通して,当該漁業における世代交代の論理を明らかにし,今後を展望したい。
水産大学校 甫喜本 憲
本報告は、山口県漁協を事例に漁協組織の職員に着目し、新規雇用や労働の実態を把握して漁協が果たす機能の現代的変質を検討しようとするものである。
山口県漁協は、令和4年度で総組合員数5,837人、職員数232人(嘱託81人)の組合である。平成17年に県一漁協合併を行い、現在、本店、10統括支店、87支店が所属している。県内水揚げは昭和63年にピークを減少傾向にあり、令和4年度の漁協総取扱金額は144億円である。一方で漁業者の65歳以上高齢化率は63.8%と全国第5位になっている(2018年センサスより)。
漁協業務に関しては、本店で信用、購買、販売、指導、共済など経済事業の集約業務、支店で現場の窓口業務を一手に担う分業体制になっており、職員採用は本店と支店、それぞれの裁量で実施される。かつては縁故採用が中心だったが、近年は応募が減り大学、高校等への募集やハローワーク等を利用して一般向けに門戸を広げている。週休二日制や有休取得等の雇用条件も一般企業並みに揃えているものの、景気の動向に左右され、労働市場が売り手優位だと採用が困難になる傾向が強い。在籍職員の年齢構成が中・高年齢層に厚い分布であるため、組合側では若手職員の採用を増やしたいが、他方で漁協自体の収益性(事業利用)が低下する状況で組織のスリム化を考慮する必要もあり、女性職員の積極登用、再雇用者の期間延長や中途採用者を増やすことで労働力不足を補っている。またいったん採用された職員の中途退職希望者は非常に少ないという側面もある。
採用後、職員の育成方法は現場で学ぶことが中心だが、それ以外に実務に関連した資格(簿記、監査、購買、流通等)の研修プログラムがあり、本店でも取得を推奨している。しかし業務の多忙さ等から受講者は少なく、他方で協同組合人としての教育は手薄な現状にある。幅広い業務経験を積ませるジョブ・ローテーションは特になく、個々人の資質に応じて配属がされるものの、若年層は特に市場関係に抵抗感が強いため、入職後しばらくは配属されない方針になっている。一方でデジタルネイティブとしての資質やPC/スマホに関する知識を有する為、事務部門のみならず、当日水揚げされた漁獲物の市況情報の配信サービスをスマホで漁業者に配信するなど、IT関連での新たな取り組みに一役買っている面もある。
支店では、独立採算で運営しなければならない事情から人件費は抑制を迫られ、(嘱託)職員1名体制が殆どである。したがって事務面以外の業務は統括支店や本店の職員が代わりに対応しているものの、浜プラン等の地域営漁計画やTAC管理に伴う地区水揚量の把握等、浜と地元支店の関係は依然として重要である。現在、浜の組合員の情報集約や地域としての意思決定は経験ある運営委員長と支店長、および自治体の普及指導員の個人的手腕に依存している状態だが、今後、後継世代で同様に進められるかがカギとなる。
鹿児島大学水産学部 鈴木 崇史
我が国の卸売市場流通機構は、日本の沿岸漁業者が水揚げした多種多様な水産物を、迅速かつ効率的に産地から消費地まで流通させる機能を有する。多くの場合、その起点は各地の漁業協同組合が開設する産地卸売市場である。沿岸漁業者の生計維持を鑑みた場合、産地卸売市場が果たす水産物の公正な一次価格の形成機能が重要である。一般的に、漁業者が水揚げした漁獲物は産地卸売市場にて行われる競売(セリや入札)を経て価格形成が行われる。
しかし近年、産地卸売市場で行われる競売に参加し、公正な一次価格の形成プロセスに関与する買受人の数が減少していることが先行研究において報告されている。全国に点在する47の水産物卸売市場を調査した廣吉らは、買受人数が減少している沿岸漁協が開設する産地卸売市場において、一部の有力な買受人の買い付けシェアが極端に高まることで、価格形成における買い手優位の状況が広く見られることを報告した1)。また鈴木らによると、買受人数が減少している産地卸売市場では、価格形成における原則的取引方法である競売が成立しなくなり、電話やFAXを通じた相対取引といった変則的取引方法への移行が発生していることを報告している2)。以上を踏まえると、買受人数の減少は水産物の公正な一次価格の形成という産地卸売市場の機能不全をもたらすことが分かる。
先述の通り、産地卸売市場における買受人は、我が国の沿岸漁業者の漁獲物の経済価値化を果たすうえで重要となる公正な一次価格の形成に関与している。この機能を維持し存続させていくためには、産地卸売市場における買受人の存続すなわち事業継承が円滑に行われることが望ましい。では、今なお存続している買受人はどのように事業を継承してきたのだろうか。さらには、そうした買受人は今後も事業継承を果たす見込みを持てているのだろうか。仮に、事業継承を果たす見込みが持てていないのであれば、どのような課題に直面しているのだろうか。こうした種々の問題意識が浮かぶものの、買受人の事業継承の実態や課題に関しては、先行研究の蓄積が乏しい。
本研究は、今なお存続している産地卸売市場の買受人を対象とした実態調査を通じて、事業継承の現状および課題を明らかにすることを目的とする。特に本報告では、競売において高い価格形成力を持つ出荷業者に着目する。
1) 廣吉勝治『水産物産地流通の現状と課題』財団法人東京水産振興会,1999年。
2) 鈴木崇史・佐野雅昭・久賀みず保「水産物産地卸売市場における買受人数の減少が価格形成に及ぼす影響」『漁業経済研究』,2024年。